アキバ昔語り
70年代、自作マイコンのほとんどは、ハンドアセンブルした機械語コードを、16進キーで打ち込んでプログラムしていました。僕の作った8080機も、出力こそ自作VRAMでテレビに文字表示が出来ましたが、入力は電卓のジャンクを改造した16進キーボードでした。
ハンドアセンブルや16進数での機械語の入力は、慣れてしまうと意外に簡単で、プログラムの作成そのものはそれほど大変ではないのですが、打ち込んだプログラムに命令を挿入したり、削除したりといった編集は大変でした。1バイト挿入すると、それ以降のアドレスが、全て1バイトずれる訳ですから、関連するジャンプやサブルーチンコールの行き先を全て手直ししなければいけません。
これではいくらなんでも大変なので、プログラムを、途中で別のアドレスに分岐させ、そこに追加のプログラムを書いた上、もとのプログラムに戻ってくる、いわゆる「パッチ」で対応していました。ただし、これも度が過ぎると、プログラムがごちゃごちゃしてしまい、どこかで全部書き直すはめになってしまいます。
BASICが自作機で使えれば、だいぶ楽になるだろうなとは思っていました。
BASICやアセンブラは、最初のうちは紙テープで、その後カセットテープ(雑誌の付録でソノシートがついたこともありました)で購入することができました。自作機の場合、ハードに合わせてI/Oルーチンなどのソフトを改造する必要があり、そこそこ面倒なのと、フルキーボードを調達したり、メモリを追加したりと結構な投資が必要なので、実際のところ、なかなか手が出ませんでした。
そんなときに登場したのが、Tiny-BASICを内蔵したマイコンチップ、SC/MP3です。ナショナルセミコンダクターのマイコンで、正式名はINS8073といいますが、「スキャンプ」という愛称で呼ばれていました。

この写真にあるのがSC/MP3ことINS8073で、1980年に亜土電子で購入し、そのまま部品箱で眠っていたものです。Z80が5000円位の頃、13000円位だったと思います。写真の記事は、これに搭載されたBASICの元になった、NIBLというTiny BASICの紹介で、1977年のI/O誌の記事です。
前置きが長くなりましたが、今回の昔語りは、このSC/MP3に火を入れて、Tiny BASICを動かしてみました。このデータシートを見てもらえばわかる通り、若干の部品とRAM、それにターミナルを用意するだけで、簡単にBASICマイコンが完成します。今回は実験なのでブレットボードに組み立てました。RAMは8KバイトのCMOS SRAM、ターミナルはパソコンのターミナルソフトを使いました。

ターミナルのスクリーンショットです。1から10までの自乗を計算させています。BASICの手軽なベンチマークとして良くやりましたね。

30年以上もの時を超えて、SC/MP3は甦りました。このデバイスは、長い間、起動されるのひたすら待っていたのですね。それを思うと、不覚にもちょっとだけ目頭が熱くなりました。
以前、PICで行番号の無いTiny BASICを動かしましたが、やはり行番号があるとそれらしいですね。実用的にも、行番号があるおかげで、テレタイプのようなダムターミナルでもプログラムの開発が可能です。
簡単にBASICシステムが構成できるマイコン、これは期待できそう、あれこれと夢がふくらむマイコンでした。
しかし、この画期的なマイコンは、残念ながらヒット商品になり損ねました。次回後編では、なぜこれが売れなかったのかを、お話ししたいと思います。