昔の深夜放送をラジオで聴くには
「深夜放送」という言葉は、単なる「夜中のラジオ番組」ではなく、「深夜の若者向け生放送番組」を意味しています。もう死語なんだろうなと思ってましたが、まだ「オールナイトニッポン」は放送中で、まだまだ現役の言葉のようです。もっとも最近はヤングだけのものではなく「ラジオ深夜便」のおかげでシニア層の愛好家も多いようですが。
1960年代、娯楽のチャンピオンの座をテレビに奪われた感のあるラジオですが、トランジスタの普及で価格が下がったこともあり、一人に一台のパーソナルメディアとして定着しつつありました。それを加速したのが、60年代末から始まった「深夜放送」のブームでした。当時、中高生(少なくとも高校生)は夕食後、机に向かって勉強するのが普通で(今も?)、勉強中「ながら聴取」するのが深夜放送だったのです。1970年代には各局が看板番組を持ち、パーソナリティの人気はスター並みという黄金時代を迎えました。
僕は1970年に中学入学、1980年に大学卒業なので、まさに深夜放送とともに青春を送った世代と言えるでしょう。本格的に聴き始めたのは高校受験を控えた1972年だったと思います。最初のうちは愛川欽也さんのパックインミュージック、その後ナッチャコパック一本槍に。「ながら聴取」とは名ばかりで、放送中は勉強そっちのけで聴き入っていました。当時は金曜1〜3時で、流石に全部聴くと翌日眠くて大変でした。本当になにやってんだかですね。
そういう世代向けに、近年、当時の放送そのままのCD商品が発売されています。生放送ですから局にテープなどあるはずもなく、熱心なファンが録音したテープからマスタリングしたものです。下の写真は「ナッチャコパック」の1972〜74年くらいの放送からピックアップしたCDです。夢中になってた時期とピタリ重なるので、僕のために商品化してくれたのではないかと思えるほどです。
これをオーディオセットで聴いてみたのですが、ちょっと違和感が。もともとラジオの音声を録音したものではあるのですが、マスタリングの処理か、あるいはオーディオセットの性能が良すぎるのか、ともかくラジオで聴いてる気分になれません。ならば、本当にラジオから音が出るようにしてしまえば、あの頃の気分に浸れるのではないかということで、試作を始めました。
CDプレーヤーやスマホのヘッドホン出力を、AMラジオに飛ばすワイヤレスマイクを作ればいいわけです。最初の試作機はトランジスタ2石、トランス変調で高音質を狙ったロッドアンテナ付きのセットでした。送信機は部屋の隅にでも設置し、作業机のラジオで放送を聴こうというわけです。作ってみると、電波法の範囲では、キレイに受信できる距離が1mくらいまでで、結局、作業机の上に送信機も置かなければなりませんでした。セットが大きいので結構邪魔です。
そこで、送信機のごく近くにラジオを置くスタイルのセットを作ってみました。この動画のように使います。
100均で購入した写真立ての裏側に1石の送信機を貼り付けたものです。CDプレーヤーなどを接続し、ラジオをごく近くに置いて使います。これなら机に置いても邪魔になりません。動画ではスマホを繋いでyoutubeにあるナッチャコパックの録音を放送しています。
本機の回路図です。泉弘志さんの「1石ワイヤレスマイク」の回路をヘッドホンから入力できるよう変更しました。
こちらが泉弘志さんオリジナルの回路です。
オリジナルの発振コイルはオールドファンにはお馴染みのNo.88コイルですが、現在は入手できません。代用品としてスーパー用の局発コイルを使いました。インダクタンスがほぼ同じなのでそのまま使えます。まだマルツオンラインやKURAネットショップなどで購入可能です。ただし、取り付け時に足を曲げると断線しやすいので、曲げずに使ったほうがいいでしょう。また、この回路ではタップは使ってないので1、3ピンは反対に接続しても大丈夫です。
トランジスタはオリジナルどおりシルクハット型の2SC372ですが、これはレトロ趣味で使っているだけで、お馴染みの2SC1815で代用できます。これもデスコンですが、今でも秋月電子などで互換品が入手できます。2SC372もヤフオクにはよく出ています。
入力ボリュームはAカーブのもの。変調レベルがシビアなのでBカーブだと調整が大変です。手持ちに50KAがたくさんあったのでこれを使いました。他の値でも大丈夫だと思います。手持ちを試してみてください。CDプレーヤーやスマホの音量は大きめにして、本機のボリュームで音が歪まないよう調整します。
電源は100均のアルカリ006Pです。電流は無信号時に3mAくらいなので100時間以上使える計算です。
平ラグに回路を組み、写真立ての裏にホットメルトで固定しました。緑のワイヤはアンテナ線です。周波数は低く、電気的に干渉する部品もないので、部品配置は比較的自由です。普通にユニバーサル基板でも問題ないでしょう。
発振コイルのコアをドライバで回すことで周波数の調整ができます。試作機では調整範囲が1100-1400KHzでした。当地では1500KHzくらいにローカル局があるのでこの辺にしています。周波数はコイルとC4,C5の容量で決まるので、150PFを100PFにすれば周波数を上にずらせます。在京民放局が入るエリアではもう少し上の方がいいでしょう。
夜中にこのセットでぼーっとラジオを聴いていると、70年代にタイムスリップしたような不思議な気分になることがあります。大袈裟に言えば、一種のバーチャルリアリティの装置ということもできるのではないかと思います(笑)